Q&A
不安と動悸
Q) 自分にとっては深刻な悩みがあり、周りに相談するのですが「そんな小さなことで」と言われてしまいます。しかし不眠や動悸等の症状も出てきており、心療内科の 受診を考えていますが、こういった場合、病院へ行ってみるのは効果的でしょうか。
A) 心療内科は「患者中心の医療」で、「疾病中心の医療」の反省から出発しています。外来に訪れる患者さんの悩みを緩和させてやることが第一で、診断は後からで良いと思います。現代の医療体制の問題は、例えば「動悸」で内科を受診した場合、「疾病中心の医療」だと、外来担当医の頭の中にある疾病以外は治療されないことになります。動悸の原因には心臓疾患以外にも、甲状腺疾患、不安障害など様々な原因が考えられます。従って、プライマリーケア医は幅広い知識を修得しておく必要があります。「不眠」についても、どのような不眠かによって対応が違います。最近、精神科医による睡眠導入剤の多剤併用が問題となっていますが、中途覚醒や早朝覚醒などの不眠には導入剤の 併用ではなく抗うつ薬の使用が必要となります。
電車や飛行機に乗れない
Q)27 歳女性。15歳の時、電車の ドア が閉まると急に胸が締め付けられるような感じがし、 それ以来電車に乗るのが怖くなりました。不安発作は薬物療法で何とかコントロールできるようになりましたが、電車に乗れない為、数か所の病院を渡り歩きました。しかし、改善が見られず現在も電車には乗っていません。現在 3 歳の子供が小学校に上がる頃までには乗れるようになりたいと思っています。
A:電車やバス、飛行機などに乗れない病気を広場恐怖症と言います。発症後、数年から数十年、適切な治療が受けられず、改善せずに苦しんでいる人は意外と多くいます。治療法の基本は暴露療法です。催眠によるメンタルリハーサルが最も効果的な方法で、数回の療法で完治します。発症にトラウマが関与している場合には、EMDRを付加すると早く治ります。施設によっては行動療法で対処しているところもあります。不安階層法と自律訓練法を用いて脱感作する方法ですが、催眠療法と較べると効果は劣ります。発症初期の場合には、可能な範囲で段階的に恐怖を感じる場所にチャレンジすることで克服できる人もいます。
社交不安障害
Q:26歳のA子さんは、1か月先の社内の研究会で発表しなければならないのですが、不安で仕方がありません。以前一寸したグループで発表した時、動悸がして声が震えて赤面して恥ずかしい思いをしたことがあったからです。その会までに何とか治す方法はないのでしょうか。
A:人から見られたり注目を浴びたりする状況で、話をしたり、電話を掛けたり、食事をしたり、字を書いたりすることに対して戸惑いや恐怖を感じ、そのような恥をかきそうな状況を避 けたりする障害は社交不安障害と呼ばれています。大規模疫学調査では、3~13%と高い生涯有病率が示され、以前は性格に基づくもので、医療の対象とは考えれていませんでした。しかし現在は多くの症例で SSRI (選択的セロトニン再取り込阻害剤)を充分量内服することでコント ロールすることができます。また、うつ病やパニック障害を合併することも多く、SSRI はこれらの疾患にも効果があります。認知行動療法や催眠療法、EMDR 療法などの心理療法を併用するとより効果的な治療ができます。
適応障害
Q) 会社の上司とウマが合わず、平日の勤務中は腹痛と下痢でトイレへ駆け込むことが多くなり、夜は仕事のことばかりを考えてしまって良く眠れません。ただ休日や帰宅後は元気なので、病院へ行くべきか迷っています。
A) はっきりと確認できるストレス因により、その始まりから3か月以内に情動面または行動面の症状が出現する疾患を適応障害と呼びます。本例の場合、排便により腹痛が軽減するようで あれば過敏性腸症候群(心身症)が、不眠により昼間の眠気等が生じていれば不眠症の合併が 考えられ、薬物療法の適応となります。情動面の症状(落ち込み、涙もろさ、絶望感、神経質、心配、過敏)ないしは行動面の症状(攻撃的、反社会的行動)によりサブタイプに分類されます。一般的に、ストレス因がなくなれば症状は軽快しますが、サラリーマン社会では環境調整 が難しく、うつ病や不安障害が発症している場合も多々あります。この際、ストレス耐性を高 める良い機会と考えて、内科的治療や心理療法にも精通した心療内科を受診してみるのがベス トと考えます。
うつ病の症状と治療
Q) 不眠 食欲不振 頭痛 腹痛 頭が働かない 不安で頭が一杯等の訴えで、数件の精神科を 受診し、うつ病との診断で、睡眠薬や抗不安薬の処方を受けたり、入院したりしましたが、一向に良くなりませんでした。どうしたら良いのでしょうか。
A)最近、このような患者さんが増えています。「うつ病」の診断は正しいのですが、治療が 不適切です。うつ病には抑うつ気分、興味又は喜びの喪失、気力、思考力、集中力の減退なとの「精神症状」と、不眠、食欲の減退、頭痛、腹痛、関節痛、めまいなどの「身体症状」があります。「うつ病」と言っても、① 精神症状が優勢なもの、② 身体症状が優勢なもの、③ 精神症状と身体症状がどちらもあるものと3型に分けることができます。特に、身体症状の治療が十分になされていないケースが多く見られ、身体症状の改善がなされない為に、医師-患者間のラポールが形成されず、不安症状やうつ症状が悪化している場合も多いのです。いくら不安症状が強いうつでも、抗不安薬だけの治療は不適切です(このような症例に遭遇することがままあります)。抗うつ薬と身体症状を改善する薬を適切に使用することが 肝要です。
物質主義と心理主義
Q)特に思い当たることがないのに、急に不安になったり落ち込んだりします。どうしてでしょうか。
A)精神症状の原因に対して、物質主義(フィジカリズム)と心理主義(メンタリズム)という 対極する二つの考え方があります。コンピュータに例えると、前者はハードウェアとしての「脳」で、心を物質の動きに還元する考え方です。後者はソフトウェアとしての「心」で、 心を因果関係で、「もしAという状況になれば自分もBを体験するだろう」と説明します。例え ば急に不安になったり落ち込んだりした場合,「職場で何かもめごとがあったんだろうか」とか、「夫婦関係や親子関係に何か問題があったんだろうか」とか考えます。しかし実際には、 脳内の青班核が過敏になり、突然この核から不安物質のノルアドレナリンが出ることにより急 に不安感が高まったり、脳内のセロトニン神経系の働きが悪くなることにより、うつ状態になったりする例も多々あるのです。このようにメンタリズムは、人間の心が従う「ハードウェアの 摂理」を無視し、純粋に主観的な体験として理解し説明しようとするものの見方です。